月城光の頭脳
結局、着いてきた月城光。
本当にこんな奴が三課の中でも噂されているあの名探偵なのか、私は疑問だった。
現場に向かっている車の中、一言も発することなくただヘッドホンで音楽を聴いている。
「佐藤さん、月城さんっていつもこんなんなんですか?」
「こんなんって?ヘッドホンのことか?」
「はい。現場に行くのに情報を何も聞かずに、ずっと音楽聴いてますよ。」
「ほっとけ。あれは、光が現場を見る前にするルーティンみたいなものだ。」
「だからって、情報ぐらい知っとかないと。」
「光の頭には、今まで自分で解決した事件だけじゃなく、過去の窃盗事件のほとんどの侵入方法や手口が入ってるんだ。だから、情報なんて聞かなくても現場を見るだけで大抵の事件は解決してしまうんだ。熟練の空き巣や泥棒ほど、同じ手口で侵入するからな。」
「自分が解決した事件以外の事件もって…何者なんですか。あの人。」
「あまり深入りしない方が良い。昔はあんな奴じゃなかったんだがな…」
そんな話をしていると、現場に到着した。
月城光の過去に何かあったのだろうか…佐藤さんの言い方に少し引っ掛かったが今は仕事に集中しないといけない。
月城光の過去
現場検証の結果、月城光は一瞬で手口と過去の窃盗事件から窃盗犯が常習犯の松島大輝(42)であることを突き止めた。
そして、最近の行動範囲を考えて、昼間に空き巣に入りそうな家を割り出し張り込んだ結果、現行犯逮捕に成功した。
空き巣の場合、決定的な証拠でもない限り現行犯でないと逮捕できないのだ。
「これが窃盗専門名探偵・月城光ですか…噂通りの腕ですね。そういえば、月城さんの過去に何かあったんですか?」
「あぁ、その話か。聞きたいなら場所を変えよう。」
周りに聞かれるとそんなにまずいことなのか、私たちは駐車場に停めている車まで来た。
「光には、4つ離れた透という兄がいた。幼い頃に両親を亡くし、それから兄と2人だったんだが、俺がよく面倒を見てやってたんだ。光は、透のことが本当に大好きで透がどこに行ってもべったりついているぐらいだった。」
「そんなにお兄さんのことが好きなんですね。でも、そんな人に甘えるような感じはありませんでしたけど。」
「そうだな。昔はよく笑ったし、俺にもよく懐いていた。よく3人で外食に連れて行ったり、遊びに行ったりしていた。でも、10年前透が死んだ。それから光は、人が変わったように笑わなくなった。」
「そうだったんですね。どうして、お兄さんは亡くなられたんですか?」
「死刑だ。でも、透は何もしていない。光も俺も透は無罪だと思っている、今も昔も。」
「それって、つまり…」
「冤罪だ。光からしてみれば、警察に兄を殺されたようなもんだろうな…だから、警察のことはあまりよく思っていないし、依頼を警察から受けるのは俺からの依頼だけだ。」
「だから、三課の中でも月城さんを見たことある人が少ないんですね。」
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